近年、重要インフラや製造業の現場を支えるOT(Operational Technology)環境へのサイバー攻撃が深刻化しています。ランサムウェアによる生産停止、サプライチェーンを狙った侵入、そして内部からの脅威など、その手口は巧妙化の一途を辿っています。本記事では、日本企業が直面するOTセキュリティの最新トレンドと、今取り組むべき対策について中立的な視点から解説します。
サプライチェーンリスク対策の強化:SBOMとNIST CSFの活用

重要インフラを構成する制御システム機器は、複雑なサプライチェーンを通じて調達されます。機器に脆弱性が見つかった場合、あるいはマルウェアが混入していた場合、その影響は甚大です。サプライチェーン全体でのセキュリティ対策状況を可視化し、リスクを評価し、継続的に監視する体制の構築が急務となっています。
SBOM(Software Bill of Materials)の活用
SBOMは、ソフトウェア部品表とも呼ばれ、ソフトウェアを構成するコンポーネントやライブラリを一覧化したものです。SBOMを活用することで、自社システムに組み込まれているソフトウェアの脆弱性を迅速に特定し、対応することができます。
NIST CSF(Cybersecurity Framework)の適用
NIST CSFは、米国国立標準技術研究所が策定したサイバーセキュリティフレームワークです。サプライチェーンリスク管理を含む包括的なセキュリティ対策を体系的に実施するための指針を提供します。NIST CSFを参考に、自社のサプライチェーンリスク管理フレームワークを構築し、継続的な改善を図ることが重要です。
ランサムウェア攻撃の高度化とOT環境への影響拡大:脅威インテリジェンスとインシデントレスポンス

ランサムウェア攻撃は、IT環境だけでなく、OT環境を直接標的とするケースが増加しています。生産ラインの停止、設備破壊といった被害が発生し、事業継続を大きく脅かす事態に発展する可能性があります。攻撃グループの手法は高度化しており、ゼロデイ脆弱性の悪用、高度な隠蔽技術、身代金要求の多様化などが見られます。
OT環境に特化した脅威インテリジェンスの活用
一般的なIT環境向けの脅威インテリジェンスだけでなく、OT環境に特化した脅威インテリジェンスを活用することが重要です。OT環境に特化した脅威インテリジェンスは、制御システム機器の脆弱性情報、攻撃グループの手口、マルウェアの挙動など、OT環境固有の脅威に関する情報を収集・分析し、提供します。
インシデントレスポンス計画の策定
万が一、ランサムウェア攻撃を受けた場合に備え、インシデントレスポンス計画を策定しておくことが不可欠です。インシデントレスポンス計画には、インシデントの検知、隔離、復旧、事後分析などの手順を明確に記述する必要があります。また、定期的な訓練を実施し、計画の実効性を検証することも重要です。
ゼロトラストセキュリティモデルのOT環境への適用:ID管理、多要素認証、マイクロセグメンテーション

従来の境界防御型セキュリティでは、内部からの脅威や、境界を突破された後の水平展開を防ぐことが困難です。ゼロトラストの原則(決して信用せず、常に検証する)に基づき、ID管理、多要素認証、マイクロセグメンテーション、最小権限の原則などをOT環境に適用することが重要です。
ID管理と多要素認証
OT環境へのアクセスを厳格に管理するため、ID管理システムを導入し、多要素認証を適用することが有効です。多要素認証は、IDとパスワードに加えて、指紋認証や顔認証などの別の認証要素を組み合わせることで、不正アクセスを防止します。
マイクロセグメンテーション
OTネットワークを細かく分割し、セグメント間の通信を制限することで、攻撃の水平展開を防止することができます。マイクロセグメンテーションは、ファイアウォールやネットワーク分離技術を活用して実現します。
最小権限の原則
ユーザーやシステムに必要最小限の権限のみを付与することで、不正な操作や情報漏洩のリスクを低減することができます。定期的に権限の見直しを行い、不要な権限は削除することが重要です。
まとめ:変化に対応し、継続的な改善を

OTセキュリティを取り巻く状況は常に変化しています。サプライチェーンリスクの増大、ランサムウェア攻撃の高度化、そしてゼロトラストセキュリティの重要性。これらのトレンドを踏まえ、日本企業は自社のOT環境におけるセキュリティ対策を強化する必要があります。重要なのは、一度対策を講じて終わりではなく、継続的にリスクを評価し、改善を続けることです。最新の脅威情報に常にアンテナを張り、柔軟に対応していくことが、安全なOT環境を維持するための鍵となります。
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