DevSecOps(デブセックオプス)は、開発(Development)、セキュリティ(Security)、運用(Operations)を統合し、ソフトウェア開発ライフサイクル全体を通してセキュリティを組み込むアプローチです。近年、サイバー攻撃の高度化やソフトウェア開発の複雑化に伴い、DevSecOpsの重要性はますます高まっています。本記事では、日本のソフトウェア開発におけるDevSecOpsの最新トレンドを、具体的な事例を交えながら解説します。
サプライチェーン攻撃対策の強化

ソフトウェアサプライチェーン攻撃は、開発者が利用するサードパーティ製のライブラリやコンポーネントの脆弱性を悪用する手口です。近年、この種の攻撃が増加しており、DevSecOpsパイプライン全体での対策が急務となっています。
SBOM(Software Bill of Materials)の活用
SBOMは、ソフトウェアを構成するコンポーネント(ライブラリ、フレームワークなど)の一覧表です。SBOMを活用することで、自社が利用しているソフトウェアに脆弱性が発見された際に、迅速に影響範囲を特定し、対応することができます。日本においても、SBOMの生成・管理を義務付ける動きが出てきており、DevSecOpsにおけるSBOMの重要性は今後ますます高まるでしょう。
サードパーティ製コンポーネントのセキュリティ評価自動化
サードパーティ製コンポーネントのセキュリティリスクを評価するために、脆弱性スキャンツールや静的解析ツールをDevSecOpsパイプラインに組み込み、自動化する取り組みが進んでいます。これにより、開発者はセキュリティ専門家の手を借りることなく、早期に脆弱性を発見し、修正することが可能になります。
クラウドネイティブセキュリティとの統合深化

コンテナ技術(Kubernetesなど)やサーバーレスアーキテクチャといったクラウドネイティブ技術の普及に伴い、クラウドネイティブ環境に特化したセキュリティ対策をDevSecOpsに組み込む動きが加速しています。
Infrastructure as Code (IaC) のセキュリティスキャン
IaCは、インフラストラクチャをコードとして管理する手法です。IaCの設定ファイルにセキュリティ上の問題がないかをチェックするセキュリティスキャンをDevSecOpsパイプラインに組み込むことで、インフラストラクチャの構成ミスによるセキュリティリスクを低減できます。
コンテナイメージの脆弱性チェック
コンテナイメージは、アプリケーションを実行するために必要なものが全て含まれたファイルです。コンテナイメージに脆弱性があると、アプリケーション全体が危険にさらされる可能性があります。そのため、コンテナイメージの脆弱性チェックをDevSecOpsパイプラインに組み込み、脆弱性のあるコンテナイメージの使用を未然に防ぐことが重要です。
ランタイム保護
コンテナが実際に稼働している環境でのセキュリティ対策も重要です。ランタイム保護ツールを導入することで、異常なプロセスやネットワーク通信を検知し、攻撃を阻止することができます。
AI/MLを活用したセキュリティ自動化

AI/ML(人工知能/機械学習)技術は、セキュリティテストの自動化、脆弱性トリアージの効率化、異常検知の精度向上など、DevSecOpsプロセスの様々な場面で活用されています。
セキュリティテストの自動化
AI/MLを活用することで、セキュリティテストのシナリオを自動生成したり、テスト結果を自動分析したりすることが可能になります。これにより、セキュリティテストの効率が向上し、より多くの脆弱性を発見することができます。
脆弱性トリアージの効率化
脆弱性スキャンツールは、多くの脆弱性を検出しますが、その中には実際に攻撃に利用される可能性の低いものも含まれています。AI/MLを活用することで、脆弱性の重要度を自動的に判断し、対応優先度をつけることが可能になります。
異常検知の精度向上
AI/MLを活用することで、ネットワークトラフィックやシステムログの異常を検知し、セキュリティインシデントの早期発見に繋げることができます。
開発者向けセキュリティ教育の進化

セキュリティは、セキュリティ専門家だけの責任ではありません。開発者自身がセキュリティを意識したコーディングや設計を行えるように、開発者向けセキュリティ教育の重要性が高まっています。
インタラクティブなトレーニング
従来の座学形式のトレーニングだけでなく、実際に手を動かして学ぶことができるインタラクティブなトレーニングが注目されています。
ゲーム形式の学習
セキュリティに関する知識をゲーム形式で学ぶことで、楽しみながらセキュリティ意識を高めることができます。
セキュリティチャンピオン制度
チーム内にセキュリティチャンピオンを設け、セキュリティに関する知識やノウハウを共有する制度を導入する企業が増えています。
DevSecOpsメトリクスの可視化と改善
DevSecOpsの効果を測定し、改善していくためには、セキュリティに関するKPI(Key Performance Indicator)を設定し、ダッシュボード等で可視化することが重要です。例えば、脆弱性の発見数、修正時間、セキュリティテストの実行頻度などがKPIとして挙げられます。これらのメトリクスを継続的に監視することで、DevSecOpsプロセスの改善点を見つけ、より効果的なセキュリティ対策を実施することができます。
**結論**
DevSecOpsは、現代のソフトウェア開発において不可欠なアプローチです。サプライチェーン攻撃対策の強化、クラウドネイティブセキュリティとの統合深化、AI/MLを活用したセキュリティ自動化、開発者向けセキュリティ教育の進化、そしてDevSecOpsメトリクスの可視化と改善といった最新トレンドを踏まえ、自社の開発プロセスに最適なDevSecOpsを導入・運用することで、より安全で信頼性の高いソフトウェアを開発することが可能になります。今後も、DevSecOpsの進化に注目し、継続的に改善していくことが重要です。
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