近年、OT(Operational Technology:制御・運用技術)環境を狙ったサイバー攻撃が高度化・巧妙化しており、企業活動に深刻な影響を与えるリスクが高まっています。本記事では、OTセキュリティを取り巻く主要なトレンドと、企業が講じるべき対策について解説します。
サプライチェーン攻撃の深刻化と対策

OT環境を狙うサプライチェーン攻撃は、特定の企業だけでなく、そのサプライチェーン全体に影響を及ぼす可能性があります。攻撃者は、セキュリティ対策が比較的脆弱な中小規模のサプライヤーを足がかりとして、最終的な標的である大企業のOTシステムに侵入する手口を巧妙化させています。
サプライチェーン全体でのセキュリティ対策強化は急務であり、以下の対策が重要となります。
* **リスクアセスメントの実施:** サプライチェーン全体のリスクを洗い出し、脆弱性を特定します。
* **第三者監査の実施:** サプライヤーのセキュリティ対策状況を定期的に監査し、改善を促します。
* **インシデント対応計画の共有:** サプライチェーン全体でインシデント発生時の対応手順を共有し、連携を強化します。
* **契約におけるセキュリティ要件の明記:** サプライヤーとの契約において、セキュリティに関する要件を明確に定義し、遵守を義務付けます。
中小規模サプライヤーへの支援
特に中小規模のサプライヤーは、セキュリティ対策に十分なリソースを割けない場合があります。大企業は、中小規模サプライヤーへのセキュリティ対策に関する支援(トレーニング、ツール提供など)を検討し、サプライチェーン全体のセキュリティレベル向上を目指す必要があります。
ランサムウェア攻撃の進化と事業継続計画(BCP)の見直し

OTシステムを標的としたランサムウェア攻撃は、システムの暗号化だけでなく、機密情報の窃取・公開を伴う二重脅迫型攻撃が主流となっています。これにより、事業停止のリスクだけでなく、企業ブランドの毀損、損害賠償請求など、多岐にわたる損害が発生する可能性があります。
事業継続計画(BCP)において、OTシステムの復旧手順、バックアップ体制、代替手段の確保などを再評価する必要があります。
* **OTシステム復旧手順の明確化:** システム停止時の復旧手順を詳細に定義し、定期的に訓練を実施します。
* **バックアップ体制の強化:** OTシステムのバックアップデータを定期的に取得し、安全な場所に保管します。バックアップデータのリストア手順も検証し、迅速な復旧を可能にする体制を構築します。
* **代替手段の確保:** システム停止時に代替となる手動運用や代替システムを用意し、事業継続を可能にします。
* **オフライン環境での復旧体制:** ランサムウェア感染を想定し、ネットワークから隔離されたオフライン環境での復旧手順を確立します。
インシデントレスポンス計画の策定と訓練
ランサムウェア攻撃発生時の対応手順を明確化し、インシデントレスポンス計画を策定します。また、定期的に訓練を実施し、計画の実効性を検証します。
ゼロトラストアーキテクチャのOT環境への適用

従来の境界防御型セキュリティモデルでは、内部ネットワークへの侵入を許してしまうと、OTシステムへのアクセスを容易に許してしまう可能性があります。ゼロトラストアーキテクチャは、ネットワークの内外を問わず、全てのアクセスを信頼せず、常に検証することを前提としたセキュリティモデルです。
OT環境へのゼロトラストアーキテクチャの導入は、セキュリティレベルを大幅に向上させる可能性があります。
* **マイクロセグメンテーション:** OTシステムを細かく分割し、アクセス制御を強化します。
* **多要素認証(MFA):** ユーザー認証に複数の要素を組み合わせ、不正アクセスを防止します。
* **最小特権の原則:** ユーザーに必要最小限の権限のみを付与し、権限昇格を制限します。
* **継続的な監視と分析:** OTシステムのトラフィックを継続的に監視し、異常なアクティビティを検知します。
OT環境に適したゼロトラスト導入
OT環境は、可用性が重要であり、セキュリティ対策がシステムの安定稼働に影響を与えないように注意が必要です。段階的な導入、影響評価、テストなどを実施し、OT環境に適したゼロトラストアーキテクチャを構築する必要があります。
法規制・ガイドラインの強化とコンプライアンス対応

重要インフラ事業者を中心に、OTセキュリティに関する法規制やガイドライン(NIST CSF、IEC 62443など)が強化されています。これらの規制やガイドラインを遵守することは、企業の法的責任を果たすだけでなく、セキュリティレベルの向上にもつながります。
企業は、自社の事業内容やリスクに応じて、適切な規制やガイドラインを特定し、コンプライアンス対応を進める必要があります。
* **関連法規制の把握:** サイバーセキュリティ基本法、電気通信事業法など、関連する法規制を把握します。
* **ガイドラインの参照:** NIST CSF、IEC 62443などのガイドラインを参照し、セキュリティ対策の基準を設定します。
* **定期的な監査:** コンプライアンス状況を定期的に監査し、改善点を洗い出します。
結論
OTセキュリティを取り巻く脅威は、ますます高度化・巧妙化しており、企業はサプライチェーン全体での対策強化、ランサムウェア対策、ゼロトラストアーキテクチャの導入、法規制・ガイドラインへのコンプライアンス対応など、多角的なアプローチでセキュリティ対策を強化する必要があります。これらの対策を講じることで、OTシステムを保護し、事業継続性を確保することが可能となります。
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