半導体は、現代社会を支える基盤技術であり、その重要性はますます高まっています。米中対立の激化、AI技術の進化、そして脱炭素社会の実現といった世界的な潮流の中で、半導体技術は大きな変革期を迎えています。本記事では、半導体技術の最新トレンドを経済安全保障、微細化競争、パワー半導体、AI半導体、人材育成の5つの視点から解説します。
経済安全保障とサプライチェーン再構築

米中間の緊張の高まりを受け、半導体サプライチェーンの脆弱性が露呈し、経済安全保障上のリスクとして認識されるようになりました。日本においても、半導体の安定供給を確保するため、サプライチェーンの国内回帰や多角化が急務となっています。
この状況を受け、政府は半導体産業の強化に向けた支援策を打ち出し、企業の取り組みを後押ししています。その代表的な例が、経済産業省主導で設立されたラピダスです。ラピダスは、次世代の先端ロジック半導体の開発・製造を目指し、国内外の企業・研究機関と連携しています。
また、台湾のTSMCが熊本県に工場を建設することも、日本の半導体サプライチェーン強化に大きく貢献すると期待されています。これらの取り組みは、日本の半導体産業の競争力強化と経済安全保障の確保に不可欠です。
先端ロジック半導体の微細化競争と製造技術革新

スマートフォンやPCなどの高性能化を支えるロジック半導体は、微細化技術の進歩によってその性能を向上させてきました。現在、2nm(ナノメートル)、さらにÅ(オングストローム)世代以降の微細化に向けた開発競争が激化しています。
この微細化競争を牽引するのは、EUV(極紫外線)露光技術です。EUV露光技術は、従来の露光技術では実現できなかった微細な回路パターンを形成することを可能にします。しかし、EUV露光装置は非常に高価であり、技術的な難易度も高いため、限られた企業しか導入できていません。
さらに、微細化だけでなく、3D実装技術も重要な役割を果たしています。3D実装技術は、複数のチップを立体的に積層することで、チップ面積を削減し、性能を向上させることができます。また、新材料の開発も、微細化と高性能化に不可欠です。日本の半導体材料メーカーは、世界的に高いシェアを誇っており、この分野での技術的強みを生かしていくことが重要です。
日本の技術的強みと課題
日本の半導体産業は、かつて世界をリードしていましたが、近年は海外勢に押され気味です。しかし、半導体材料や製造装置といった分野では、依然として高い技術力を持っています。今後は、これらの強みを生かしつつ、先端ロジック半導体の開発・製造にも力を入れていく必要があります。
パワー半導体の進化とSiC/GaNの普及加速

電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの普及を背景に、パワー半導体の需要が急速に拡大しています。パワー半導体は、電力を効率的に変換・制御する役割を担っており、EVの航続距離向上や太陽光発電の効率化に貢献します。
特に注目されているのが、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった次世代パワー半導体です。SiCやGaNは、従来のシリコン製パワー半導体よりも高温・高電圧に強く、電力損失が少ないという特徴があります。そのため、EVや再生可能エネルギー分野での応用が期待されています。
SiCやGaNの性能向上とコストダウンが進むにつれて、その応用範囲はますます広がっています。例えば、EVのインバーターや充電器、太陽光発電のパワーコンディショナーなどに採用されています。
AI半導体の多様化とエッジAIの台頭

ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)の登場により、AI半導体の需要が急増しています。LLMの学習・推論には、膨大な計算能力が必要であり、高性能なGPU(Graphics Processing Unit)がその役割を担っています。
しかし、GPUだけでなく、AI推論専用のチップ(NPU: Neural Processing Unit)の開発も活発化しています。NPUは、特定のAIアルゴリズムに最適化されており、GPUよりも高い電力効率でAI推論を実行できます。
また、データセンターだけでなく、エッジデバイスでAI処理を行うエッジAI半導体の開発も進んでいます。エッジAIは、リアルタイム性の高いAIアプリケーションを実現するために不可欠であり、自動運転、スマートファクトリー、スマートシティなど、幅広い分野での応用が期待されています。
半導体人材の育成と確保
日本の半導体産業を再生するためには、技術者の育成と確保が不可欠です。しかし、国内では半導体技術者の不足が深刻化しており、人材育成が急務となっています。
大学や高専では、半導体に関する教育プログラムを拡充し、次世代の技術者を育成する取り組みが進められています。また、企業も積極的に人材育成に投資し、海外の技術者との交流を促進しています。
さらに、政府も人材育成を支援する政策を打ち出しており、産学官連携による人材育成体制の構築を目指しています。半導体産業の活性化には、優秀な人材の育成と確保が不可欠であり、長期的な視点での取り組みが求められます。
結論
半導体技術は、経済安全保障、技術革新、そして人材育成という多岐にわたる課題に直面しています。日本が半導体産業で再び主導権を握るためには、これらの課題に真摯に向き合い、官民一体となって戦略的な取り組みを進めていく必要があります。先端技術の開発、サプライチェーンの強化、そして人材育成への投資を通じて、日本の半導体産業の未来を切り開いていくことが期待されます。
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